大判例

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東京高等裁判所 昭和46年(う)3080号・昭46年(う)2940号 決定

被告人 酒井政勝

〔抄 録〕

本件については、昭和四六年七月一五日に起訴され、同年九月六日の第一回公判期日においてその審理が終結となり、同年九月二〇日の第二回公判期日に判決が言い渡されているのである(ちなみに、この本件については、被告人の、司法巡査および司法警察員に対する各同年七月五日付供述調書((ただし、この二通は矢代文夫名義))のほか、司法警察員に対する右同日付および同年七月一一日付各供述調書ならびに検察官に対する同年七月一三日付供述調書が証拠として、提出されている。)ところが、一方、本件の余罪でこれと併合罪の関係にある別件についてもすでに早くから捜査が行なわれていたのであるが、その後中途で一時これがとぎれたためか昭和四六年九月一七日にいたつてようやく起訴され(その起訴状謄本は同年九月二三日に被告人に送達されている。)、同年一〇月一五日の第一回公判期日を経て同年一〇月二六日の第二回公判期日に判決の言渡しが行なわれている(ちなみに、この別件については、被告人の、司法警察員に対する同年一月一三日付と同年四月七日付との二通の供述調書および検察官に対する同年九月一〇日付の供述調書が、証拠として提出されているが、司法警察員の取調べと検察官の取調べとの間になぜこのような月日のへだたりが生じるようになつたのかは、記録上明らかでない。)。そして、この別件の検察官に対する被告人の供述調書には、「私は、今、もう一つの免許証偽造の件で、裁判を受け九月二〇日に判決を受けることになつています。」との記載があるから、その取調べにあたつた検察官としては、当然被告人に対する他の事件(すなわち本件)がすでに東京地方裁判所に係属しており、その判決の言渡期日が九月二〇日にせまつていることがわかつていたはずであり(なお、別件における原審第一回公判期日における被告人の供述によると、右取調べたあたつた検察官は、その際被告人に対し、「二〇日が判決ならば別件起訴すれば間に合うし、判決をのばすようにする。」と言つたとのことである。)、また、さればこそ、現に、その検察官は、前記のとおり同年九月一七日に別件について起訴するにあたり、その起訴状の末尾にとくにその別件については「昭和四六年七月一五日貴裁判所に公判請求した被告人本人に対する窃盗等被告事件と併合審理願いたい。」との符せんを貼付しているのであつて、これはけつして当該起訴検察官の独断による措置とは思われない。しかし、それにもかかわらず、本件の第二回公判調書によると、検察官側からも、また、被告人側からも別件についての併合審理のことに関して裁判所に対し別段の申立がなされた形跡がいささかも見あたらない。これはおそらく前記別件の起訴検察官と本件公判の立会検察官との間の連絡がふじゆうぶんであつたとともに、別件における前記第一回公判期日における被告人の供述から察すると、被告人は、その当日まだ別件の起訴状謄本の送達も受けていない関係もあつて、別件については勘弁してくれるかも知れないという安易な気持からせつかくその公判開廷の直前に弁護人から「なにかじぶんに話すことはないか。」と尋ねられているのに、別件のことについてはなにも言わなかつたために弁護人もそれに気づかず、また、肝心の裁判所もいまだその件については聞知していなかつたものと考えるほかはない。そこでおもうに、もちろん併合罪の関係にある数個の事件は、刑法四五条以下の規定の趣旨から考えてできるかぎりその審理を併合しなければならないが、さればといつて、各事件の内容ないしその手続の進行状況又は被告人の員数等の事情から、必ずつねにこれを併合しなければならないとすることも妥当を欠くことになるから、刑事訴訟法三一三条一項は、裁判所は、「適当と認めるときは、」弁論を併合することができる、と規定したものと思われる。したがつて、単に本件と別件が併合罪の関係にあつて併合審理の可能性があつたということだけからただちに本件を別件と併合審理しなかつた原審の訴訟手続に法令の違反があつた、ということにはならない。しかし、なおよく考えてみると、なるほど、別件が起訴された昭和四六年九月一七日にはすでに本件の審理は終結されていて、その判決の言渡期日も同月二〇日ときまつてはいたものの、もともと両件とももちろんその被告人はもとより、その弁護人もまた同一人であるうえに事案の内容それ自体もけつして複雑多岐にわたるものではないばかりか、被告人はすべての事実を認めて争つていないのであるから、かりに本件の判決言渡期日を一回延期し、その審理を再開のうえあらためて別件と併合審判したからといつて、事案全体の処理について、いちじるしい遅延を生じるとか、その他、手続の進行上格別の不便ないし困難を来たすものとは思われず、しかも別件の事案は、まさに文字どおり本件事案の余罪であつて本件の保釈中にかさねてこれを敢行したというような関係にあるものではないことなどを総合考慮し、かつ、本件の手続の進行状況をじゆうぶん承知していたと思われる別件の起訴検察官さえとくに本件との併合審理を希望する旨の意思を表示して、本件についての判決言渡期日に間に合うように起訴している(ちなみに、なおすすんでいえば、別件についての検察官の取調べがもつと早期に行なわれていたら、これを本件と合わせて起訴することができたであろうし、そうでなくとも、同年九月六日の本件についての第一回公判期日前に別件の追起訴をすることが可能であつた、と思われるのである。)点をも加味して勘案すると、もし本件の審理を担当していた裁判所が、別件の成行きを諒知していたとすれば、必ずや職権によつてでも本件についての判決言渡期日を延期するとともに、あらためてその審理を再開し別件と併合審理して、一個の判決で処断する手続をとつたものと思われるし、また、本来そのようにすることが併合罪の処理に関する刑法四五条以下の規定の趣旨にもよく合致するものといわなければならない(現に、別件の判決も、とくにその判文中において、「本来、本件((すなわち別件))は昭和四六年七月一三日=七月一五日の誤記と思われる=に東京地方裁判所に起訴された被告人に対する窃盗、道路交通法違反、有印公文書偽造、同行使被告事件((昭和四六年合わ二五七号))((すなわち本件))と併合して審理判決されるべきものであつたところ、これが併合されることなく、同年九月二〇日、同裁判所において、右事件について懲役一年六月の刑を言渡されたこと等その他諸般の情状を考慮」して酌量減軽する旨を明記していることに注目しなければならない。)。したがつて、たとえ、当該裁判所が現実には別件の存在を諒知しておらず、また、被告人も前記のような事情から積極的に別件との併合審理を求める機会をみずから逸してしまつたとしても、なお、客観的には、本件は、別件とともに併合審理を受けることが可能な状態にあつたもの(たとえば、公判立会の検察官と別件の起訴検察官との連絡がついていれば、その公判立会の検察官を通じてその起訴検察官の意向を裁判所に伝えることもできるし、また、裁判所側としても、前記別件の起訴状を受理したばあいただちに本件の係属部にこれを連絡通報することは、さして困難なものとは思われない。)であり、また、その両者を併合審理することによつて手続の進行上になんら実質的な困難を来たすおそれがあつたとも思われないから、本件を別件と併合して審判する手続をとらず、これによつて被告人に二個の判決をうける不利益を与えてしまつた本件原審の訴訟手続は、結局、法令に違反するものといわなければならない。そして、現に、その本件および別件のいずれもが当裁判所に係属して、しかも併合審理の対象になつており、これらを一個の判決で処断することが可能であるから、右の違反は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、本件についての原判決は到底破棄を免れない。

(樋口 目黒 伊東)

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